ニッサン情報 第29号
グリセリン飼料「グリセナージ」 (その3)


 ニッサン情報第27号において、グリセリンはプロピレングリコール(PG)に比べて安全な素材であることおよびその正味エネルギーは9.5MJであることを紹介しました。また同28号では、グリセリンを主材とした新製品「グリセナージ」について解説し、分娩前後の格好のエネルギー・栄養補給用飼料として上市いたしました。
 グリセリンを給与して周産期の健康を維持しようとする試みは海外でも行われております。今回と次回は乳牛にグリセリンを給与した試験例を要約してご参考に供します。


乳牛用飼料にPGあるいはグリセリンを添加した場合の飼料摂取量、乳量、乳成分  
及びケトーシスの発生に及ぼす影響

L.J.FISHER, JDERFLE, G.A.LODGE, and F.D.SAUER


■ 要   旨

 泌乳初期の高泌乳牛の飼料に1日あたり250gのPGを添加すると、血中および乳中ケトン体レベルを低下させ、血中ブドウ糖レベルの上昇と乳量増をもたらすことが報告されている。Fisherら(1971)は、グリセリンの濃厚飼料への添加はPG添加と比べて泌乳牛の飼料摂取量が増加することを認めている。
 試験ではPGおよびグリセリンを混合した濃厚飼料を給与した場合のケトーシス発生の防除効果について検討を行った。第1回試験では、1日の濃厚飼料給与量を5kgとし、PG3%(150g)添加区、グリセリン3%(150g)あるいは6%(300g)添加区を設け、52頭の牛を使い分娩後8週間にわたって行った。
 その結果この程度のPG、グリセリンの添加量では乳量、乳成分、飼料摂取量あるいはエネルギーバランスに有意の差は認められなかった(p>0.05)。グリセリン6%含有の濃厚飼料を給与した牛は、対照牛群あるいはPG3%あるいはグリセリン3%を添加した区と比べて体重減少が少ない傾向を認めた。対照牛群は、添加牛群と比べて明らかに代謝エネルギーの利用性が低かったが、その差は有意ではなかった(p>0.05)。臨床型ケトーシスの発生はなく、乳中ケトン体陽性反応を示した牛(>2mg%ケトン)は14例であった。その内訳は、対照区5例、PG3%区3例、グリセリン3%区4例、同じく6%区2例であった。

 
 
対照区
PG3%区
(150g)
グリセリン3%区
(150g)
グリセリン6%区
(300g)
 乳量
(kg/日)
25.49
25.82
24.34
25.10
 乳脂肪率
(%)
3.05
3.09
3.25
3.06
 乳蛋白質
(%)
3.44
3.39
3.44
3.46
 粗飼料摂取量
(kg/日)
6.23
6.00
6.26
6.36
 体重減少
(kg/日)
△0.89
△0.89
△0.93
△0.60
 乳中ケトン体陽性牛
(頭)
5
3
4
2


 第2回試験では、この結果を基として、供試牛に若干の栄養的ストレスを負荷(濃厚飼料を4kgに減給)したところ、乳中ケトン体レベルが上昇し、乳中ケトン体陽性反応を示す牛の発生は、対照区31例、PG120g区6例、240g区2例および360g区3例となった。特に対照区の4頭は臨床型ケトーシスになり、ブドウ糖投与による治療を受けた。飼料摂取量、体重あるいは飼料効率に対するPG添加の効果は一定したものではなかった。
 Balch(1972)は泌乳初期の乳はエネルギー含有量が高いのでエネルギーバランスが大きく負の状態となり、乳飼比を一定にしておくとケトーシスが発生しやすいと指摘している。本試験を通じて、ケトーシス発生が10%以下のような普通の牛群にはPGあるいはグリセリンを1日あたり150g、またケトーシス発生が10%以上あるような問題牛群には300gを飼料に添加して分娩後6週間給与すれば獣医師診療費の低減につながるであろう。

■ 要   約

 1. 濃厚飼料5kg/日とグリセリンを300g/日を給与した試験区は、対照区、PG150gまたはグリセリン150g給与区よりも体重の減少が少なかった。
 2. この程度の飼料が給与されている場合には、臨床型ケトーシスの発生は認められなかった。グリセリン300g区では潜在性ケトーシスの発生は期間中に2頭で、他の区に比べて少なかった。
 3. 濃厚飼料給与量を4kg/日に減じて栄養的負荷をかけた場合、PGを120g、240gおよび360gを給与してもケトーシスが発生し、対照区の4頭は明らかに臨床型であった。PG給与量が多い区ではケトーシスの発生が少なかった。
 4. ケトーシスが10%以上発生する牛群では、PGまたはグリセリンを1日当り300g以上を給与すべきである。


グリセリンの反芻動物用飼料への活用
A.SCHRODER, K.SUDEKUM


■ 要   約

 グリセリンはプロピレングリコール(PG)に似た物質であり、高泌乳牛のケトーシス発生予防に効果的に使われている。本試験では、グリセリン1.1kgを含む飼料を給与し、ルーメン発酵、微生物の大量生成、栄養消化性などを調査した。
 グリセリンは天然で甘味のある液体であり、EUでは飼料添加物E422として登録されている。Lebzien & Aulrich(1993)は、そのNELはkg当り9.5MJと高いことを報告している。高泌乳牛に対してブドウ糖前駆物質を供給することはケト・アシドーシスを防ぐ効果があると報告している(Jonson,1955; Fisher wt al.,1971; 1973; Sauer et al.,1973)。米国では、乳牛の30%〜50%は亜急性ケト・アシドーシスに罹患していると報告されており、分娩前のエネルギー供給が重要なことを示している(Hutjens,1996)。
 反芻動物を使った消化試験で推定したグリセリンのNELは、高澱粉質濃厚飼料への添加では8.3MJ、低澱粉質濃厚飼料への添加では9.7MJ/kgであった。またグリセリンを添加した飼料は、澱粉質飼料と比較して飼料摂取量、飲水量、ルーメン内微生物数には違いがなかった。 採食後のルーメンpHの低下はグリセリン添加飼料給与の場合に顕著であった。これは、グリセリンのルーメン内分解が小麦澱粉のそれよりも早いことを示している。グリセリンは、ブドウ糖の前駆物質として高泌乳牛の分娩前後のエネルギー補給に寄与し、その結果として全泌乳期間中の牛の健康と生産によい効果をもたらすことがわかった。

■ 要   約
  1. 反芻動物による消化試験でグリセリンのNELは9.7MJと確認された。グリセリン採食後のルーメンpH低下は顕著で、ルーメン内分解が小麦澱粉より早いことを示している。
  2. グリセリンを添加した飼料は、澱粉質飼料と比較して飼料摂取量、飲水量、ルーメン内微生物数などに差はなかった。
  3. グリセリンは高泌乳牛の分娩前後のエネルギー補給に有効であり、全乳期を通じて牛の健康と生産に寄与する。




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