ニッサン情報 第23号
分娩後の起立不能は絶対に起こしてはならない(3)


グルコン酸カルシウムを経口投与した試験

 産後起立不能が発生する恐れのある牛に対して分娩前にビタミンD3の注射をして予防したり、起立不能に陥った牛に対しては獣医師によるボログルコン酸カルシウムの投与が行われています。

 グルコン酸カルシウムを注射又は点滴する代わりに、このものを経口給与する試験が行われました。NOSAIえひめ野村家畜診療所、周桑家畜診療所(井原ら)では、グルコン酸カルシウム300gを透明水溶液として分娩前後に経口的に給与したところ、分娩後の低Ca血症の発生は4%に止まり、低Ca血症の予防と治療に有効であったと報告しています。透明水溶液とはカルシウムが完全にイオン化されていることを意味しています。


グルコン酸カルシウムはリン酸カルシウムを凌ぐ効果がある。

 またこの報告書では一般的に行われているリン酸カルシウム給与の場合に比べて、グルコン酸カルシウム給与後の血中カルシウム濃度は有意に上昇したとしています。

 300gの第2リン酸カルシウム及び同量のグルコン酸カルシウムを分娩直後に給与したそれぞれの牛群の血中Ca及びP濃度の変化が示されています。リンカル群では分娩後3時間からP濃度が極端に上昇しますが、肝心のCaの濃度が殆ど上昇せず、低いレベルで推移しています。これは、リンカルを給与した場合には腸管からのP吸収がCaより早いこと及び血中P濃度が上昇すると、腎臓でのビタミンD3の活性化が抑制されてCa吸収が阻害されることになると説明されています。一方グルコン酸カルシウムはPを含まないカルシウム剤ですから、P濃度は上がらずにCaの吸収が順調に行われることになります。

 分娩後血中Ca濃度が極端に低下するとルーメンの蠕動が停止することがあります。このような場合でもグルコン酸カルシウムを給与すると、3時間後には蠕動が回復し、5時間後の血中Ca濃度はルーメン健全群とほぼ同等のCaレベルに回復することが示されています。

 またこの試験の中では、第4胃内へ各種のCa剤を直接投入し、投入後の血中Ca濃度の変化を調べています。グルコン酸カルシウムは投入後3時間をピークに5時間まで他の群と比べて有意に高い値を示しています。リンカル群は投入後2時間後には僅か濃度が上昇しましたが、グルコン酸カルシウム群には遥かに及びませんでした。炭酸カルシウム群は投与後一貫してCa濃度は変わりませんでした。

 これらの一連の試験の結果、グルコン酸カルシウムを経口給与した牛群の低Ca血症の発生率は4%と低く、タンカル(21%)、リンカル(37%)給与群と有意の差が見られました。

 グルコン酸カルシウム透明水溶液の経口給与が、低Ca血症の予防と治療に有効であることを平成9年度家畜診療等技術全国研究集会で報告した本論文は、農林水産省経済局長賞を受けています。
図4 G-Caおよびリンカル投与群のCa・P値の推移
(分娩直後に投与)

【家畜診療、45巻5号】

図5 ルーメン蠕動の有無によるG-Ca投与群のCa濃度の推移
【家畜診療、45巻5号】

図6 第四胃内のCa製剤投与後のCa値の推移
【家畜診療、45巻5号】

図7 投与したCa製剤による本症の発症割合
【家畜診療、45巻5号】



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