ニッサン情報 第8号
乳牛と味噌


産後に優しい贈りもの

 人間の社会では産後の見舞に味噌を贈る風習のある地方があるようですが、乳牛の産後にも味噌湯を給与することは古くから行なわれています。原茂先生の著書の中にも、乳牛は産後には疲れて咽喉も渇いているから、ビール1〜2本又は適量の味噌を味噌湯にして飲ませるとよいと述べられています。 アメリカなどでは子牛が下痢をした時や産後には、台所にあるコンソメスープに少量の塩を混ぜて給与し応急処置をしています。
 味噌湯を飲ませるということは古人の知恵ですが、これには立派な理由があるのです。 しかし今では飼養頭数が多くなり、夜間の分娩に立ち会うことも少なくなってこの習慣が廃れてしまったようです。
 分娩後には味噌湯を与えるという優しい管理を取り戻してみせませんか。

脱水症状の緩和

 脱水症状は、下痢をしたとき熱があるときなどのほかに、お産のときも起こるものです。脱水症状は放置しておくと体の抵抗性が弱まり、いろいろな病気の引き金になります。 脱水症状が起きたときはできるだけ早く水を補給してやることが大切です。
 しかし真水だけを与えてもその吸収性はあまりよくありません。吸収性をよくするためには電解質溶液が効果的です。味噌は大豆や麦が米麹によって分解されて原料に含まれているミネラル類が溶けだし、塩と混合して天然の電解質となっています。味噌500gを温かい湯10〜15Lに溶かしたときの濃度が、腸管からの水分吸収が最もよい滲透圧だとされています。 産後の母牛の脱水症状を素早く解決することが産後の立上りをスムーズにする最善の方法なのです。

溶解性蛋白質の補給

 お産の後には泌乳という仕事が待っています。そのためにはしっかり飼料を食べることが期待されます。しかし無理をすると食滞を起こして取り返しのつかない故障が発生することがあります。 産後にはまず第一胃中の微生物群の整備が必要で、この整備のためには溶解性蛋白質がなくてはならないものなのです。
 味噌はその醗酵中に大豆蛋白が麹菌の作用によってペプチド若しくはアミノ酸まで分解されていますから、給与後すぐに徹生物に取り込まれて健全な第一胃環境を作り出すのです。 適当なときに適当な量の溶解性蛋白質を給与することは、乳量への期待は勿論のこと、いわゆる周産期病といわれるものを防ぐための最善の管理手法なのです。

酵素の供給

 むかし、女性はウグイスのフンで顔を洗ったといわれます。これはウグイスのフンには蛋白質分解酵素が含まれていて、皮膚の汚れ(蛋白質)を分解する働きがあるからなのです。 最近「酵素入り○○」といったCMをよく見かけますが、動物の体内の化学変化は全て酵素と呼ばれる数10種類の化学物質が関わっているのです。
 味噌は2〜6ヵ月の醗酵・熟成期間に麹菌からいろいろな酵素を産成し、ビールや酒又はチーズなどと同様に醗酵食品として位置付けられています。 味噌はとりわけ酵素を多く含む食品で、自身が消化のよいものであると同時に、他の飼料の消化も助けるというすばらしい働きをもっているのです。
 麹菌(アスペルギルス・オリーゼ)の産成する酵素の中には、第一胃微生物の活性を促すものや未確認ではありますが牛乳中の体細胞数を抑制する効果のあるものなどが含まれていると考えられています。

 この科学の時代に味噌湯などと冷笑する方々も多いと思います。しかしリバイバルの中に捨て難いものがあります。 分娩後1〜2回の味噌湯の給与はきっと面白い効果が表われるでしょう。 アメリカがコンソメスープなら、日本はミソスープで対抗してはいかがですか。



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